『氷』
アンナ・カヴァン / 山田 和子 / 筑摩書房 / ISBN 9784480432506
よだかの推しコメ
「一番好き」「オールタイムベスト」という言葉に直面すると、思わず一歩後ろに退いてしまいそうになる。 数えきれないほど本を読んだとは言えないけれど、順位をつけることをためらうほどには、思い入れのある本が多い。 そんな中でも、「これは必ず入る!」という一冊がある。 アンナ・カヴァンの『氷』だ。 もともと日本文学ばかり読んでいた私が海外小説しか読まなくなったのは、ぜんぶこの本のせいである。 カヴァンに出会っていなかったら、私はいまも海外小説のことを、どこか遠い国のおとぎ話のようにしか感じなかったかもしれない。 それほどまでにこの物語は個人的で、内面的に描かれている。 人生のどこかで負った古傷を、鋭い刃物でぶっ刺してくるような荒々しさ。それでいて虚無に近しい、無感情な冷たさがある。あまりに寄るべがなくて、存在しない痛みで苦しくなってしまうほどに。 カヴァンの本が刊行されたとき、大好きな作家である皆川博子さんがこんな推しコメを寄せていて、それが今でもずっと心に残っている。 「カヴァンを『読む』ことを必要とする」読者は必ずいます、と。 この「必要」という言葉がとても好きで、カヴァンという作家を説明するのにこれほど適した言葉はないように思う。 ある人にとって薬のような効能をもたらし、ある人に毒をのむような苦しみを与える作家。 あなたにとってこの本は、毒にも薬にもならないかもしれない。けれど、きっとどこかの誰かにとっては「必要」とする本になるはずだ。